子役の道
番傘川柳本社の磯野いさむ名誉主幹が亡くなられた。最後に私がお会いしたのは、2018年1月に大阪の太閤園で開催された、番傘川柳本社創立110年記念・磯野いさむ名誉主幹100歳のお祝い・森中恵美子句集「ポケットの水たまり」発刊記念川柳大会という記念すべき大会だった。選者を務めさせていただいていたので、私は田中新一主幹と磯野いさむ名誉主幹の隣の席だった。三人で世間話をしたのだが、とてもお元気でハキハキと話をされていたのが印象的だっただけに、訃報は本当にショックだった。
訃報を聞いて、句帳を書いてもらっていたことを思い出した。句帳と呼んでいいのか分からないのだが、立派に表装されていて和紙を広げる形で句を書くようになっている。正確に言えば、書いてもらったのは私の両親だ。裏表紙には「2007年1月8日 番傘新同人おめでとうの会 於・三井アーバンホテル」と父の筆書きが残っている。そうそうたる川柳作家が集まる新同人おめでとうの会で、両親がウロウロしながら一句ずつ書いてもらっているのを私は自分の席から黙って見ていた。なぜなら、母が南米土産のド派手なセーターを着ていて、一緒に歩くのが恥ずかしかったのだ。父の帽子には大きく「SAGA」とプリントされているし、みんなにはバレているけれど他人の振りをしていた。
意気揚々と席に戻ってきた両親は私に句帳を渡し、
「磯野いさむ主幹に、この句帳のタイトルをつけてもらったよ。すごい人達に一句書いてもらったけん、これは久美ちゃんの宝物になるよ!」と言う。
句帳のタイトルには「子役の道 いさむ」と書かれていた。ページを開くと
しゅう名をいつかはしよういい子役 磯野いさむ
お宝という海の友山の友 森中惠美子
しんし張りの波をくぐれば母がいる 岩井三窓
私の毒をわかってくれる人と飲む 田頭良子
加代ちゃんが好き加代ちゃんに通せんぼ 柏原幻四郎
み佛のひざのぬくみの中にいる 杉森節子
四季折々友と酒あり詩がある 住田英比古
など、よくぞ書いてもらえたなぁという顔ぶれが並んでいる。一番驚いたのが、書いてくれないことで有名な柏原幻四郎さんが書いてくれていたこと。どうやって口説いたのか聞いてみると、
「子や孫にこの句帳を残したいのでお願いします!」
と言ってせがんだらしい。ダテに南米のセーターを着てないなと感心しながら、私は句帳が汚れないようにタオルに包んでバッグに仕舞った。
あれから15年ほど経って私も指導的立場になってきているのだが、いさむ名誉主幹からすれば、きっとまだまだ「子役」だろう。これからも「子役の道」をしっかりと歩んでいきたい。