top of page

初恋抄(22)七名の男の子2021.3.1日更新

 二年前、私が教えている小学校の川柳教室に小学一年生の男子が七名入ってきた。教室では全学年の生徒を同時に教えており、高学年の子がいることもあってそれまでは比較的落ち着いた雰囲気だったのだが、彼らが入ってきて教室の雰囲気は一変、毎回保育園のような騒がしさだ。川柳教室は一時間半。まるで剣道を教えた後のように疲れ果てて帰る日々。そんな私の気持ちとは裏腹に、私が駐車場に車を停めるのを窓から覗き込んで待っている子供達。車から私が降りると玄関へ我先にと迎えに来て、私の周りで飛びはねる姿に「なんて可愛いんだ」と抱き締めたくなってしまう。

 小学一年生にいきなり川柳を作らせるのは無理なので、まず文字を正しく書けるようにならなければならない。「せんせぇ、『ぬ』ってどがん書くと?」という質問だけならまだしも「アソコかゆいけんちょっと見て!」とズボンを開けて見せに来られたときにはどう対処すればいいのか分からなかった。一人が来ると、最低でも三人ほどが集まり「オレもかゆかやん。ほら」なんて見せ合う。「やめなさい!!!」と何度叫んだことだろう。

 その一年間は、他の学年の子には申し訳ないと思いながらも、なんとか音字数に慣れるところまでは進めることができた。だが限られた時間の中で、ひらがなから教えなければならないのはタイムロスが大きすぎるということで、次年度からは小学二年生から受け入れることになった。毎年新しい子が入ることもあれば、辞める子も必ずいる。そんな中、この七名全員が二年生になってもそのまま入ってきたので、私はつい笑ってしまった。「なんで笑うと?」と聞くので「一年生のときにあんなに私に叱られとって、よくぞまた川柳教室に入ってきたねぇ」と言うと「オレ川柳好きやもん!」と元気に言う。嬉しいやら悲しいやらの複雑な心境ではあったが、二年生になったのだから少しは落ち着いてくれるだろうと期待も大きかった(結果は大差なし…トホホ)。

 この小学校では川柳教室だけではなく、料理教室、音楽教室、習字教室など、自分達で好きなものを選んで学ぶことが出来るようになっている。学校の授業ではないし生徒側は無料なので、先生の判断で生徒を「クビ」にすることができる。川柳教室は他の教室をクビになった子供達の最後の砦になっていて「オレ、料理教室をクビになったけ~ん」と言う子もたくさんいて、納得の騒がしさだ。私も時々「もぉぉぉ許さん!クビにしてやる!」なんて言うのだが、今まで一人もクビにしたことがないので完全に舐められていて、ちっとも言うことを聞いてくれない。私はそんな時の必殺技を編み出した。「校長先生に言うけんね」である。すると少しは静かに過ごしてくれるようになった。校長先生の存在にもっと早く気づくべきであったが、それまで「先生、男子とは別の日に教室をしてください。うるさすぎて無理!」と、文句ばかり言っていた女子達も少しおとなしくなった。

 今年度の教室も終わり来年度は三年生になる男子達。なんとなく、また全員入ってくる予感がする。彼らの成長を川柳と一緒に感じられる幸せを噛み締めている。



閲覧数:132回2件のコメント

最新記事

すべて表示
bottom of page