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初恋抄(24)かささぎ川柳会 2021年5月4日更新

 私が講師をしている「かささぎ川柳会」に、やる気だけは半端じゃないおじいちゃんがいる。「川柳をやりたい」と入会したはいいが、こだわりが強くて添削しても聞かないし、投句の仕方も守らないし、呼名も文台が聞き直すまでしない。じゃあ私はそのおじいちゃんが嫌いかといえば反対で、そんなおじいちゃんを見ていると楽しくて仕方がない。何度教えてもやらないので、見ているだけでニヤニヤしてしまうのだ。

そんなある日、おじいちゃんから手紙を手渡された。内容は「お金は払いますので週に一回、個人授業をしてください」というものだ。衝撃的だったのは『もともと俳句をやりたくて俳句の先生に「正月や餅で押し出す去年グソ」と書いて出したら「これは川柳です」と言われたから川柳を始めた』と書かれていたことだった。私は個人授業はお断りしているので、句会で質問を受けるという形にしてもらったが、いざ質問しようとすると何を質問していいのか分からない様子。「焦らんでいいけん、のんびりやっていこうね」なんて言っていたのもつかの間、そのおじいちゃんは咽頭癌で入院してしまった。もう会えないような気がして胸が痛かった。

 だが、おじいちゃんは不死鳥のごとく蘇った。咽頭摘出手術を受け、二ヶ月で句会に復活したのだ。そして電気式人口咽頭を使い懸命に話す姿に、句会のみんなが胸を打たれた。もともとおしゃべりな人だったのだが、電気式人口咽頭になってもっとおしゃべりになった。一生懸命にしゃべるから、みんな一生懸命に聞く。おじいちゃんを見守る雰囲気が句会のみんなの心を一つにしているようで、私はとても嬉しかった。

人間関係で内々で派閥を作ってしまう句会もあるし、高齢化で続けることができない句会もある。そんな中「かささぎ川柳会」は会員を増やし続けている。これは、会長の横尾信雄さんを始め、常にみんなをサポートしてくれている江川寿美枝さん、そして、真面目に、でも楽しく、川柳と向き合う会員のみんなのお陰だ。「かささぎ川柳会」の仲間に入れてもらえたことを誇りに思っている。




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