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初恋抄(26)初耳 2021年7月5日更新

 川柳触光舎が主催する第11回髙田寄生木賞は竹井紫乙さんの「アンソロジーつれづれ」だったが、入選賞に横尾信雄さんの「川柳との出会いとその後」が入った。

 信雄さんは私が所属している佐賀番傘川柳会の会長で、会誌「むつごろ」の巻頭言を担当されており、毎月いろいろな話をご自分の見解で読ませてくれる。六月号は「走れメロス」についてで、青森県金木町に「メロス坂通り」があることが紹介されていた。巻頭言が楽しみな柳誌は少なく、私はこの「むつごろ」の巻頭言を一番楽しみにしている。川柳をしていて思うことは、句が書ける人は多いが文章が書ける人が少ないということ。だから私は文章を書ける人を見つけるとすぐに「髙田寄生木賞に挑戦してみてよ!」と誘うようにしている。そういう私は全く書けないのだが…。

 そんな信雄さんが髙田寄生木賞に挑戦してくれた。何を書いたのかは何度聞いても教えてもらえず、私はこれまでの集大成のような仰々しいものを想像していたのだが、全く違って等身大のものだったので驚いてしまった。信雄さんが書きたかったのは川柳のことではなく、川柳を通じて出会った人への感謝だった。私のことも書かれていて、その内容が私には一番の衝撃だった。「歯に衣着せぬ久美子さんに数名が難色を示していた」とか「久美子さんの講評が辛辣なことは言うまでもない。参加者は戦々恐々としている」とか。

……初耳だ。

九十代のおばあちゃんまでいるのだから、私はそれはそれは優しく、歯に衣着せぬどころか、何層ものオブラートに包んで伝えていた、つもりだったのに。読みながら「え?え?えぇぇぇ!?」と叫んでしまった。私には優しさが足りないのか。バファリンのように半分は優しさでできていると思っていた「私の久美子像」は、脆くも崩れ去った。

 信雄さんの文章を読んで、父が指導していたかささぎ句会に最初に参加した頃を思い出した。最初の頃は「お父さんはいったい何を教えていたんだろう」といつも腹が立っていた。「なんでこんな句を平気で投句するんだ」という気持ちでいっぱいで、没の理由を教えて欲しいという人に「逆になんでこの句が入選すると思うと?」と質問したこともあった。母に「久美ちゃん、みんなが入選を目指しているわけじゃないとよ。没でもいいけん、楽しく川柳をしたいだけの人もいるけんね」と言われるまで、私はみんなの句を大会入選に引き上げようと必死だった。

入選が全てではないのだ。世間話をして、お菓子を食べて、ユニークな句に笑い合う。それも大切なのだ。そのことに気付いてからは優しく優しく接してきたつもりなのだが、まだまだ足りないようだ。みんなの句を褒めることができる講師になれるよう努力しなければならない。髙田寄生木賞に挑戦してくれて、これからの課題を与えてくれて、信雄さんに心から感謝している。




閲覧数:152回1件のコメント

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1 Comment


danseki1962
danseki1962
Jul 07, 2021

久美子さんこんばんは、久々に

笑かしてもらいました。正直すぎる信雄さんの感想、それを口に出さずにじっと見守る姿勢も見事です。また、それを初耳と表現する久美子さんも素晴らしい。

そのような関係が出来上がっている環境は、川柳会を営んでいくうえで明るいくったくのない意見交換ができる場が存在するはずです。うらやましい限りです 団

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