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初恋抄(47)母のノート 2023年4月29日更新

 連日、全国の誌上大会の締切に追われて、我が家にはたくさんの投句用紙がある。私はまずノートに書いて、何度か推敲を繰り返して、自分で納得がいったら用紙に清書するという書き方をしているのだが、私の母は直接投句用紙に書くという恐ろしいことをやってのける。台所のテーブルに座って作句している母の前にはノートなどなく、投句用紙があるのみ。漢字を間違えると修正ペンで消して上から書く。

私「ねぇ、ノートに書いてから清書したら?」

母「ばってんせからしかもん。(だって面倒くさいもん)」

私「推敲せんと!?」

母「あと三か所あるとに、間に合わん」

私「川柳ノートは?」

母「あるよ。用紙に書いたら諦めのつくけん、書き写すたい」

私「逆やろ!!」

なんという潔さだろうかと呆れてしまうが、結果は私とあまり変わらない。

母はちゃんと川柳ノートを持っていて、常にバッグに入れている。分厚くて重いので、何度も買い直すことを勧めたのだが、絶対に受け入れない。そのノートは父とお揃いなのだ。 

そういえば、父もこの分厚いノートを持ち歩いていた。几帳面だったので日付ごとにきちんと分けられていて、いつどこの大会で入選したのか没だったのかが一目で分かる。大きな字で丁寧に書かれていたが、闘病するようになってその字は小さくなっていった。私にはいつも「字を大きく書くと大きな人間になるばい」と言っていた父の字がだんだん小さくなるのがとても悲しかった。

先日の句会中、母がノートを開いたまま席を離れたので閉じようとして手が止まった。そこには父と二人で撮った写真が挟まれていた。もう母に新しいノートを勧めるのは止めようと思う。古くても、重くても、それぞれに大切な思い出が詰まっているのだから。




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